いわゆるシーズンバイトというやつですね。本当に僕の事を誰も知らない場所に来てしまいました。
一応携帯電話は持ってましたが山奥なのでつながらない(笑)両親以外誰にも言ってこなかったので行方不明状態です。
旅行もずっと行ってなかったので気分はワクワク!毎日天然温泉に入りまくり。
旅館指定のはっぴを着て、はじんの番頭さん生活が始まりました。
早朝に起きて朝食の支度。配膳。お客様を見送った後布団の片づけ、掃除。内風呂、露天風呂の掃除。
お昼ご飯の後、しばらく休憩。15:00頃からは新しいお客様をお出迎え、案内、夜ご飯の準備、お布団を用意。自分の夕食。諸々雑務をして自分の時間。
毎日早朝から夜遅くまで働いてました。しかし、何故かそんなに苦じゃなかったんですね。性に合ってたんでしょうか。
基本的に段取りさえ覚えれば後はそれをしっかりこなすのみ。接客も楽しかったですしね。
それよりも大自然の中で色んなしがらみもなく楽しく仕事ができることが新鮮でたまりませんでした。おかみさんも旦那さんも板前さんもすごく良い人でしたし。
温泉街の人たちもみんな暖かくて色んな出会いもありました。本当に楽しい毎日でした。
そんな時、ふとお客様の予約がない日がありました。基本的にお客様の予約があれば休みが無いのがこの仕事。朝のお見送りや掃除を終えた後、おかみさんから
「今日は午後から休みにしていいよ」
と言われました。ここに来てから初めての休み。
僕は迷わず、ずっと行きたかった上高地へとお出かけすることにしました。
上高地まではバスで数十分。初めて足を踏み入れた時は「ここは日本なのか?」と思ってしまうくらいの絶景。景色をみて感動するなんてこの時が初めてかもしれません。
ここに来た理由はただの観光だけではなく、もう一つやりたいことがあったのです。それは「大自然の中一人でこれからの人生を考えること」
上高地を散策しながら絶景ポイントで腰を下ろし、ゆっくり考えました。考えるというよりそれはただただボーっとしてただけかもしれません。
ただ、その時に浮かんできたことは「曲を作りたい…」。ここに来て数か月、全く音楽のことを考えずにいました。ただがむしゃらに旅館業を学び、接客を学び新しく出会った人たちと過ごしていました。
このまま音楽をあきらめることも考えていました。しかし頭に浮かんできたことは「曲を作りたい…音楽がしたい…」大自然の中でその言葉が頭の中をずっとリフレインしていました。
立ち上がった僕は上高地を後にし、そのまま飛騨高山にある楽器店にいきエレアコを購入しました。いわゆるアコスティックギターのケーブルがさせるやつです。
お金もそんなにないので安物のギターですが、それを手にした時僕は心の中の何かが開いた感じがしました。
旅館に帰ってからは深夜以外の空き時間、ずっとギターを弾きながら曲を作っていました。歌詞も書いて完成した曲は十数曲くらいでしょうか。書きかけでやめたのを含めたらもっとあります。
時は立ち、そろそろ夏も終わり季節は秋へと差し掛かった所。シーズンバイト契約期間も終了の日が近づいていました。大阪に戻ったらもう一度音楽を頑張ろうと決意したはじん。
荷物もまとめに入ったある日、おかみさんに呼び出されたはじんは衝撃の一言を耳にするのです。
「延長してくれない?」
次回は、はじん板前さんになる!の巻